第64回青少年読書感想文全国コンクール入賞作品
松江二中 森脇莉沙子さん 「一〇五度」 |
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「自分は一人でもやっていける。」こんな顔をして過ごすことが、少し前まで私にもよくあった。まるで、転校して梨々に出会う前の真のように、面倒なことには巻き込まれたくなくて、いつだって周りにうまく同化したフリをしてきた。でも心の内では、みんなと同じがいいなんて思っていないし、自分を殺してまで同じではいたくないと思っていた。中学校最後のテニスの試合では、団体メンバーには入っていたものの、試合に出ることが一回もないまま終わってしまった。本当はすごく悔しくて、今すぐにでもその場から消えたい気持ちだったのに。そんな時でも私は、全然余裕ですみたいな顔をしてみんなに接していた。だから余計、真に親しみを覚え、いつしか真に自分を重ねて一緒にイス作りに参加しているような気持になっていった。
デザインを担当する真と、模型を作るモデラーの梨々の、イスが好き、イスを作りたいという共通の熱い思いが、二人を全国学生チェアデザインコンペに向かわせていったのだと思う。中学生の二人にとっては、越えなければならないハードルがいくつかあったけれど、私はどんなイスが出来上がるかワクワクが止まらなかった。 比較的穏やかな梨々だったが、デザインがなかなか決まらずにいる真に、一度強く催促したことがあった。デザインをもとに五分の一の模型を作り、修正を繰り返してやっと実物大の模型を作り、それからまた修正を繰り返さなければならないという工程が見通せる梨々には、相当な焦りがあったのかもしれない。でも真は、そうした梨々の気持ちを理解しようと努めることもしなかったし、気づいてやることもできなかったのだ。責められているように感じた真は、逆に腹を立て、梨々に言い返してしまった。それを聞いた梨々は「デザイナーが上で、モデラーが下みたいな言い方じゃん」と、怒って帰ってしまうのだ。梨々の言葉に初めて、自分がどこかでモデラーを下に見ていたことに気づいたのだ。同時に今の自分の力では、デザインを形にしてくれるモデラーの梨々の助けがないと何もできないことを悟るのだ。一人で大丈夫、なんとかやっていけると思いあがっていた自分自身の言動を振り返っていくうちに、真は、軽く寄りかかるにはちょうどいい背もたれの一〇五度の角度以上、思いっきり梨々に頼っていた自分の弱さにも直面することになっていった。人はこんな風に自分の思い上がりや弱さに気づけた時、素直な自分を取り戻し、自分を取り巻く温かい人間関係に気づき、自分を支えてくれた人への感謝の気持ちも生まれてくるのかもしれない。 テニスの大会の後テントに戻ってみんなが泣いている時、私だけは一緒に泣くことができなかった。試合に出ていないのに泣いたら情けないとか、そういう変なプライドがあったからだ。でもそんな強がっている私に笑顔で声をかけてくれた先輩がいた。一緒に練習し、励ましていてくれていた先輩だった。我慢していた涙が一気にこぼれ落ちていった。先輩のやさしさに触れ、かたくなな心が溶けていったように感じられた。応援してくれる人の存在がうれしかったし、自分のことばかり考えていたことが情けなかった。そして改めて、人に寄りかかっているばかりの自分の弱さや未熟さを思い知らされたのだった。
「オレ頼りないけど寄りかかりたいときは寄りかかっていいよ」、真は梨々とのこの一件で、人に頼り頼られることの大切さを学んだのだと思う。病気がちでそれを言い訳にいろいろなことから逃げてきた弟の力を以前から嫌悪してきた真が、少しずつ力に歩み寄っていくのだ。頑張ってみないかと思いを伝えていく中で、学習が遅れている力が、実は学校でバカと言われ傷ついているらしいことを知るのだ。自分も父親の手前テストの順位を決して落とすわけにはいかないのに、力のために毎日一時間勉強を見てやるのだ。周囲の人に目を向け、人の気持ちを慮って行動していくうちに、真がどんどん頼もしくなっていくように私には感じられた。
真の進路について、美術とかデザインを仕事にするのはやめろと、断固として反対し続けた父だったが、本当は真の一番の応援者なのかもしれない。中学生の息子の進路選択の参考に、美術系を仕事に選んだ自分の友人を紹介し、会う算段までしてくれる父親なんてそうそういないと思う。真を信頼していたからこそ、最後は茨の道を自分で選ぶ以上は泣き言を言うなとわざと突き放したのではないだろうか。かつての真ならまともに受けて反抗的になっただろう。でも、表現は下手だがそこに父親の愛情を感じとった真は、改めて真剣に自分の進路と向き合う決心をしたのだ。 審査員特別賞の二人の作品は、真と梨々が持ちつ持たれつ、苦労を共にし成長してきた 証のように思われる。私も今後人と一〇五度の人間関係を築ける、そんな一人になりたい。 |
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